八郎太郎伝説Ⅲ<七座山>(北秋)

=真澄記=

十和田湖を追われた八郎太郎は、北秋田祁と山本郡の境、米代川が流れるふもと、北から籠山、南から七座山が迫っている所をせき止めて湖水を作った。 

このため、比内地方は一大湖となって、八郎大耶の安住の地となった。   


だが収まらないのは八座山(昔、七座山は八座山と言った。)の神様達だった。

何とか八郎太郎をよそへ移したいと相談し、八座のうちの七座の天神様に一切をまかせることにした。  


ある日、天神さまは、八郎太朗を八座山の頂上に招いていろいろな話をした。 

「八郎太郎よ、お前は大変な力持ちだそうだね、私も神々のうちではどの神さまにも負けない。ひとつ力比べでもしてみようか。」と話しかけた。 


おだてられた八郎は「やってみましょう。持てるだけの大石を川の向こうの天神川原に投げ、遠くまで投げた方が勝ちですよ。」といきなりそばの巨大な石をだき起し、満身の力をこめて投げつけた。 

石はうなりを発して米代川に水しぶきを上げて落ちた。いま米代川の中流にある中岩がその石だという。   


「ほほう、大したカだ。こんどは私の番だ。」天神さまは、にこにこしながら八郎の投げた石より、もっと大きな石を持ち、ぶるんと投げた。 

石は川原を越えて遠く天神の境内を越えて田んぼまで飛んでいった。 

この怪力に八郎太郎もびっくり。内心赤くなる思いで、「一度やろうか。」と天神さまが言ったのもうわの空で聞いていた。


すると天神さまは、話題をかえて、「ときに八郎、寝床みたいに細長くて浅いから、あちらの山、こちらの岩に手やひざがつかえるだろう。どうも気の毒だね」と同情した。 

すると八郎は、「そのとおりたが、どこへも行くところがない。」と細々といった。   

「それは見聞が狭い。わたしはお前が気の毒なので、多少心当たりを探してみた。男鹿半島の方に、際限なく広々としたところがあった。そこをお前の住家にすれば、竜王の宮殿になると思ってきたよ。」 


八郎太郎の心は大いに動いた。「しかし神さま、この米代川の浅い水では進むも退くもできないが。」 

「いやその心配はいらない。ワシも援助しよう」 


天神さまは八郎の気持ちが変わらぬうちと、神々に話し、湖水をつくっている山に穴をあけるよう白ネズミに命ずることにした。  

おびただしい白ネズミは神々の命令どおり、山にトンネルを掘りはじめた。 

驚いたのは、富根と鶴形の附近のネコ族だった。ネコ族は仲間を集め、ネズミを餌食にしようと攻め寄せた。ネコとネズミは三日三晩乱闘苦戦を続けた。 


これを御覧になった神々は、ネコ族をさとし、「年中ノミが付かないようにするから、ネズミを捕ることをやめなさい」といって、ネコ族を一ケ所につないで、ネズミに近づけないようにした。 

このネコ族をつないだ所が猫繋で、ネコのネをはぶいて「コツナギ」と呼ぶようになったと言う。 今の小繋がその場所で、そこには「禁鼠大明神」という祠も現存している。 

今の七座神社でもネズミ除けのお札をわけているが、その由来もここから出たものだという。 


こうしてネズミは安心して穴をあけ、ついに水を通した。 

果せるかな、大洪水となって見る見るうちに一座の山は押し流され、この山は切石部落にひっかかり七折山となった。 

ニッ井町の七座の名も、八座のうち一座を流された後になってからの名前だそうです。 

そののち、八郎太郎はこの濁流に乗って米代川を下ったのです。 


真澄:七倉山

七倉山


真澄:麻生村から七倉山を眺む

真澄:巌の権現

真澄:獅子頭