=真澄記=
白幡の神の御社の傍らに、船繋ぎの樹として大きな榎の切り株があったが、最近風に吹き折られ、その根も朽ちてしまったので、その名残もない。
今は、ささやかに木を植えて育てている。
昔はこのあたりを小菅野の渡しと言っていた。昔、ここを雄物川が流れていて、徒歩人(かちびと)が向こう岸に佇むと、こちらからそれを見て、「越すか」と声をあげて問う。「うむ」との応えを聞いて舟を差し出して渡したと言う。
その「越すか」の一言は、その世の渡り守り(わたりもり)の癖なのを真似て、伝えられるままに小菅野の渡りと今の世にかけて語られている。