桁倉沼(湯沢)

=真澄記= 

市籠澤、桂澤、興平治澤と小流れがあって、丸木橋がかかっている。行くと菅野へ出た。右に桁倉という湖水があって、中に小嶋がある。 

その小嶋は水の上へ浮いているように見えた。この小嶋の木々は皆紅葉で染めたようだが、中ほどは葉も落ち、中から弁財天の祠が見える。 

水は広く、それを写す四方の山々、岸の梢の影も落ちて、眺望が非常に良い。 


この桁倉はどのような由縁があるのか人に聞いてみた。 


倉山に須那宇(すなう)という所がある。そこの昔高野聖(こうやひじり)が行を行ったところ。 

スナウとは栖穴(すなう)なり。栖穴を訛った言葉だろう。 


陸奥の山賊等は小屋、戸屋を家戸(けと)と言い、山家戸(やまけと)などと言った。 

洞窟などもあったので、それは石家戸(いしけと)と言った。また、この山には窟(栖穴の跡)がたくさんあったので、家戸倉と言うところを、けたくらと言ったのだろう。 


峠があって高き岩山を倉と呼ぶ。この家戸倉麓の湖水なのでけたくらぬま(桁倉沼)と言う。 


上に水上という澤があって、その水がここに落ちてこの湖となっている。湖の水は小安村へと落ちていくので、桁倉は川向の荘といえる。 


高い所へ登ってみれば、言葉もないほど面白い。この湖水には二尺あまりの鮒や大きななまずが住んでいる。またもろもろの小魚・小蝦も獲れる。