=真澄記=
昔、草城の庄柴内の郷に八郎太郎と言うまだ若いマタギがいました。
このあたりの人々は、毎日猟で生計を立てる暮らしでありました。
ある日 八郎は仲間と共に猟のために奥入瀬に入りました。
仲間は猟のため山中に入ったが、若い八郎太郎は仲間のために残り、一人で木を切って、飯を炊く係りとなりました。
八郎太郎十和田湖に来て水を汲んでいました。
その時、春日の解ける湖の氷の間に、大きな岩魚(いわな)がいるのを見つけ、仲間の分と、3匹獲りました。
あまりにうまそうなので、一匹食べましたが、あまりのうまさに残りの二匹も食べてしまったそうです。
すると、たちまち焼けるように喉が渇いてたまらない。
持っていた筒の水を飲み尽くしても更に喉が渇いて、岸辺から湖の水を飲みに飲みました。 ついには身が重く心も晴れない。
猟師らが帰ってきて驚きました。
「これは誰だ!」「八郎太郎だ。」「この身はいかがしたのだ、大丈夫か」
なんと、八郎太郎は八頭のおろちに身を変えていたのです。
八郎太郎は涙をはらはらと流して、事情を説明しました。
「もう私は人と交わることはない。親・妻・子等に、この成り行きを説明して欲しい。」と言い、「この箕笠をしるし」として投げ、「今をこの世のかぎりなり」と言い捨てて、高岸から湖へ入りました。
はるかな沖に風が立ち起こって、獅子頭の異なる八の頭をもたげて、現れては沈み、やがて湖は静かになったそうです。
真澄:十和田湖から八甲田山
真澄:十和田湖(冑嶋・兜嶋)
十和田湖から八甲田山
十和田湖(冑嶋・兜嶋)