弘前近くに娘をやっていた女があって、この娘が、自分の母はこの年の飢饉(天明の大飢饉)にどうしているか会いたくなった。
道のりは一日のうちに歩いていけるところなので、出かけていって夕方近く着き、互いに無事を喜び合った。
そのあとで母の言うことには、「猿がまるまると肥えているようだ。食べたら、旨さは限りないであろう。」と戯れて言うのを聞いた。
娘は母の空言ではあるが、薄気味悪くなって、母の寝た隙をうかがい、ひそかに戸を押し開けて、夜の間に逃げ帰った。ということだ。
このような世の振る舞いの恐ろしさ、皆人間のなせることながら、羅生、阿修羅の住む国もかくなるものかとも思う。