=真澄記=
男鹿の黒崎(黒沢)の付近に菖蒲澤長根というところがあって、普通とは違う蕨が生えている。
昔法師に宿を貸した女が、「海が荒れてワカメが採れず汁草が無い」と言うと、法師が途中で手折ってきた蕨を出して「これを」と言う。
女は「蕨はあく抜きをしなくては食えない。」と言うと法師は「それは必要ない。」と言って鍋に入れた。
やがて飯と共に食べると、実によく蕨の味が出て、おいしいものだった。
後の人は「空海が世に出て示したものではないか」と語ったそうだ。