秋田県の中央、上小阿仁村がある。村を流れる小阿仁川に沿って沖田面の集落があり、これはその集落にまつわるお話です。
=真澄記=
村の老夫が言う。
昔この里は家もない深山だった。 小阿仁川より西に、幾千年経っているかわからない大樹があった。
この大樹には、地上から一丈上のところに空洞があって、その堅固なことは石のようだった。
また、節くれも多く、遠くからこの大樹を見ると、耳、目が自ら備わって人面のようだった。
きこり、山賊どもが注連縄(しめなわ)を引き渡して、いつも願をかけていた。
幾重にも、上下にも注連縄(しめなわ)を貼っているので、上は白髪のように、下は白髭のように、木の皮は剥げ落ち、風雨で木の肌は青白く、まことに翁の面のようであった。 村人はこれをもって翁面といった。
その後、きこり山賊の小屋が建ち、終日人が居るようになった頃、翁面は里の名となった。
今はそれが変化して沖田面となった。
幾年か過ぎ、その人面の木も朽ち果てた。何処からか沙門が来て、朽木の跡に小さな祠を建て、観世音を安置して村里の鎮護としたそうだ。
真澄:沖田面の大樹
沖田面の大銀杏
上小阿仁川の流れ
上小阿仁の鎮守