真澄が見た大滝温泉の正月(大滝温泉)

真澄は大滝温泉に滞在し、正月行事を詳細に記述しています。今は廃れたものも多いでしょうが、このころの生活風習が偲ばれて、注目に値します。 


=真澄記= 

元旦:あわせ餅を食べ、歯がためをする。仏壇には御魂の飯をはじめ、ゆずり葉、五葉の松をか飾り、折敷に盛った鏡餅、男たちが山の神に祀る鉈子(なたこ)の餅、娘たちが供える苧小笥(おおけ)の餅がある。 


七日:七草粥を食べる。「らく」という乞食めいた人が祝い事をのべ唄っている。 


八日:湯の神を祀る日で、日待の行事を行う。この夜はばくちをして夜を明かしている。湯の神に捧げた酒を飲んで酔い、押付舞やたかうな舞などの性的なしぐさを伴う舞を踊って戯れあっている。 


九日:女が男の面をつけ、けらを着て、鳴子を鳴らして、宝数えということをする。 


十三日:節分 


十四日:十二所の火振りかまくら(かまくら焼き)。秋の木の葉を集めて俵に詰め、火をかけて振れば、雪の上に紅葉(もみじ)が降ったようで、火花を春風に散らす様は風情がある。 


十五日:雪田植え。小正月である。大臼・小臼を伏せ、大鍋・小鍋を伏せる。粟穂の餅、馬の餅、まゆだまの餅を飾り、ミズキの朱色の小枝に白い餅をさしている。牛の餅、馬の餅、柱の餅、水の餅、桶の餅、鍵の餅(自在鍵)、つむの餅(機織)なそを供えている。若水を汲む。子供たちは鳥追いを楽しむ。 


十六日:としぎりの行事(果樹ぜめ)。女たちは着飾り、めいめいがしたいほうだいの遊びをしていた。 


十七日:おしくら神をほぐろと言って、いたこがその吉凶を占っていた。 


十九日:若い女たちは、小麻笥の餅をあぶると言って、一つ家に集まり、機織の神を祭って供えた餅を食べ、酒を飲む。男は例の鉈子(なたこ)の餅を食い、酒を飲む。お互いに別の家に集まるのであるが、「きのうまでやい、五尺むしろにひとり寝た。こよいうれしやふたりねる」、これは妻を迎える夜に唄うのであるが、今日の祝いにさまざまな唄をうたいまくっている。 


二十五日:彼岸の入り。木彫りの仏に、すずり、鐘、つつみを鳴らして「往生不定のその時は、念仏は一返出申さない、唯今申す念仏を受け取りたまえや。」と声を枯らして唱える。 


二十八日:彼岸念仏(百万遍)の老女たちが集まって、皆酔いしれて、声も鼻鳴りして騒ぎ、金つつみを鳴らしてはやし、獅子頭をかぶって戯れて踊り、唄い・舞い、道端に倒れる者さえいるありさまだ。 


二月二日:彼岸の終わり、濁り酒を飲む。 

八日:戸窓ふたぐの行事。(葉に芳香のあるウイキョウという草と魚のひれを串にさして戸窓にさす)