=真澄記=
むかし、安倍三之丞の娘・辰子という稀に見る美貌を持った娘がいた。
年頃になった辰子は自分の美しさを永遠のものとしたいと思うようになり近くの大蔵観音に百日詣りの願を・・・。
そして満願の夜、観音様の御神託により、「北の山を越えていったところに清い霊泉がありそれを飲めば願いが成就する」とのお告げが、、、。
辰子はその泉へ向かった。
その泉には美しい岩魚が住んでいて、それを捕らえて食べた途端、絶えがたい喉の乾きが辰子を襲う。
泉に手を差し入れ、水をすくって口にするが一向に乾きは癒されない。
たまらず腹這いになり泉に直接口をつけて、がぶがぶ、がぶがぶと飲みつづけた・・・。
すると・・・、辰子の身体は見る見るうちに大きな竜に化身となる。それと共に天地鳴動、山が崩れ谷を埋め水が溜まり、大きな湖が・・・。
竜になってしまった辰子はこの湖に入り、そしてここの主となった。
このことを知った辰子の母は、岸辺に松明りをかざしながら名前を叫び続けた。
その声を聞いた辰子は湖面に姿を現し、「私の願いはかなった。永遠だ。」と言い、そのまままた水中へと姿を消していった。
母は悲しみ、「情けないことよ・・・。」とかざしていた松明りの燃えさしを湖面に投げ捨てた。
するとその燃えさしに見る間に尾びれがつき、湖心に向かって泳いでいったという。
田沢湖に住むこれが木の尻鱒(きのしります)別名国鱒(くにます)と言う。
雪の辰子姫像
ひっそりと佇む田沢湖